患者さんに「歯槽膿漏です」とお伝えすると、特に若い方は、とんでもない病気にかかってしまったという顔をします。そこで、歯学界では、患者さんの心理的負担を和らげるために、歯槽膿漏を歯周病と言いかえることにしました。このため、歯周病は、歯槽膿漏の一歩手前という誤った認識が広がっていますが、
歯周病と歯槽膿漏は全く同じものです。
私は、表現を変えることで、安易に患者さんの危機感を
低下させているのではないかと懸念しています。
事実、30代の80%以上は歯槽膿漏(歯周病)
を患っており、日本人が歯を失う原因としては、
虫歯よりも歯槽膿漏(歯周病)で歯を失う方のほうが実は多いのです。
歯槽膿漏(歯周病)は歯を支えている顎の骨が溶けてしまう怖い病気です。基本的には、一度、溶けてしまった骨は再生しません。さらに、歯槽膿漏(歯周病)にかかってしまうと、自分では気づかないうちに、強烈な口臭を周囲にまき散らします。
こうした状況を少しでも改善するためにも、患者さんに歯槽膿漏(歯周病)に関する正しい知識を持ってもらう必要があります。
多くの患者さんから幾度となく、「毎日、歯磨きをしているのに、どうして歯槽膿漏(歯周病)になってしまったのですか?」ということを聞かれます。その答えの一つが歯槽膿漏(歯周病)が人から人へ移る感染症であるということです。
感染症である以上、物理的な清掃(歯磨き)だけで
感染予防をすることはできません。
さらに、歯周病菌はバイオフィルムと呼ばれる強力な
バリアで守られています。このバリアは歯磨きだけでは、
除去することが非常に困難です。
このことをお伝えするために、患者さんには次のような例え話をすることにしています。
たとえば、毎日、台所の三角コーナーの中にある生ごみを捨てますよね。
これがお口の中でいう、"歯を磨く"ことにあたります。
しかし、毎日、生ごみを捨てていても1ヵ月もすると、"ヌメヌメ"してきますよね。
実は、これと同じことがあなたのお口の中でも起きているのです。
この三角コーナーのヌメヌメをきれいにするためにどうしているでしょうか?
おそらく、クレンザーなどの強力な洗剤を使用して、元通りのピカピカの状態に戻しているとおもいます。
三角コーナーと異なり、お口の中では、このような強力な洗剤を使用することはできません。したがって、それよりも安全なものとして、普段、あなたが使用している歯磨き剤を使用することになります。
しかし、残念なことに歯磨き剤だけでは口の中の"ヌメヌメ"を完全に落とし切ることはできません。これが、毎日、歯を磨いていても歯周病になってしまうメカニズムなのです。
お口の中にできる"ヌメヌメ"をバイオフィルムと呼び、歯周病菌などにとってのバリアのようなものといえます。このバリアを壊さない限り、歯周病菌などに直接効果的な攻撃を加えることはできないのです。
このバリア(バイオフィルム)を除去するためには、歯科医院で定期的に歯のクリーニングを受ける必要があります。
3カ月に1度の定期検診を受診されることをお勧めします。
※頑固な汚れであるバイオフィルム・歯石を除去するだけでなく、歯の着色汚れもとれ、自然な白さがよみがえります。また、歯がツルツルになり、お口の中がサッパリします。この爽快感は患者様に大好評です!
歯磨きを毎日行い、定期健診にも行っているのに、
どうしても一か所だけ歯周病が進行してしまうことが
よくあります。噛み合わせを調べると、物を噛む際に、
ある歯にだけ強い力が加わっていることが多くあります。
この力で歯がゆすられて、歯周ポケット(歯のわきの溝)が深くなり、そこが歯周病菌にとって格好の繁殖環境となってしまい、歯周病が進行することがあります。
進行が止まらない原因が、「噛み合せ」に起因している場合、ひたすら細菌を掻き出して掃除し、薬で殺菌しても、ちょっと気を許せば再び細菌が繁殖してしまいます。
このような方は、歯の掃除も大切ですが、「噛み合わせ」を整えることをお勧めします。
私は、日本咬合学会の噛み合せ認定医を取得しておりますので、お気軽に「噛み合せ」に関してご相談ください
歯槽膿漏(歯周病)の恐ろしいところは、サイレントキラー(静かな殺し屋)と呼ばれるガンや脳卒中と同様に、痛みが伴わないため、あなたが気付かないうちに病気が進行してしまい、気付いたときにはもう手遅れになってしまっているということです。
歯槽膿漏(歯周病)にかかった患者さんは、助けを求めて歯科医のもとに来院されます。
「グラつきだした歯を治したい」「以前と同じように物が噛めるようになりたい」という希望を持って、歯科医院に訪れます。
しかし、多くの場合には、「グラついた歯を抜きます」と診断されてしまいます。歯科医院で行われる抜歯のうち、約8割が歯槽膿漏(歯周病)によるものだという報告もあります。
歯槽膿漏(歯周病)は末期になると、決定的な治療法や特効薬がありません。
歯科医師としても、歯槽膿漏(歯周病)の初期段階での治療は自信がありますが、末期では延命がせいぜい、というのが本音です。
しかし、早目の来院によって、その後の状況が大きく変わってきます。
ですので、下記のセルフチェックに該当する箇所が1つでもありましたら歯科医院への来院をお勧めします。
下記のような症状が一つでもありましたら、すぐに歯科医院に来院されることを強くお勧めいたします。
ここまで読んでいただければ、歯周病の治療が終了しても、治療前の生活習慣や歯に対する考え方のままであれば、結局、再治療の可能性が高まることがお分かり頂けたと思います。
現在の歯科医療では、歯周病の原因が解明されており、どのようにすれば歯周病にならずに済むのかの予防法が確立しています。
歯周病になってしまったのには、あなたにそれだけのリスク(生活習慣、ブラッシングの方法などなど) が存在していたからです。このリスクを減らすことができなければ、治療したとしても再発する可能性は高まります。
歯科医院でのメインテナンスでは、単に歯石・バイオフィルムなどを除去するだけでなく、あなたのリスクを把握し、そのリスクコントロールのアドバイスも行いますので是非有効にご活用ください。
せっかく治療した歯。できるだけ長く、快適な状態でいたいですよね!
今度は治療ではなく、お口のケアのために歯医者におこしください!
3ヵ月ごとの定期的なメインテナンスをお勧めします。
歯周病、歯肉炎、歯周炎の違いは?
歯周病とは、「歯肉炎」「歯周炎」の総称です。
≪歯槽膿漏(歯周病)の進行過程≫
―歯肉炎とは?―
歯肉(歯ぐき)のみに炎症が起きているもので、歯周病の初期段階です。
上図①の状態です。
健康な歯肉はうすいピンク色で引き締まっています。
歯肉炎になると歯肉が赤く腫れ、歯磨き時に出血したりします。
原因は歯垢です。歯垢の中には細菌(歯周病菌)がたくさんいて、その細菌が有害物質を出し、歯肉炎が起こります。
―歯周炎とは?―
歯肉炎が進行したものです。上図②~④の状態です。
歯を支えている骨が吸収され、歯がグラグラしてきます。
最終的には歯を支えきれなくなり、歯が抜け落ちてしまいます。
歯を抜いてしまうと、もう自分の歯は二度と生えてきません。
歯周病は全身疾患の原因になるという話を聞いたことがあるのですが、本当でしょうか?
本当です。
関連性が報告されているものは、
糖尿病、心筋梗塞、肺炎、早産、低体重児出産、動脈硬化
などがあげられます。
歯周病は、歯を失う病気というだけではなく、
全身疾患にも関連してくる恐ろしい病気という認識が大切です。
特に歯周病と関連が深い病気が糖尿病です。糖尿病の人は感染に対する抵抗力が弱まっているため歯周病にかかりやすく、重症化しやすいと言われています。さらに、歯周病菌は毒素や炎症性物質を大量に放出するのですが、これがインスリンの効きを悪くさせ、糖尿病を悪化させることも危険視されています。
つまり、糖尿病があると歯周病になりやすく、歯周病があると糖尿病が悪化しやすいという関係性が存在するのです。
また最近では妊娠中の歯周病の悪化は、お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼする事がわかってきています。
低体重児を出産した母親と、正常体重児を出産した母親の歯周病の進行程度を比較した調査では、低体重児を出産した母親の方が歯周病が進行していたという報告があります。また、妊娠中の歯周病をそのままにしておくと、早産の確率が高まることも指摘されています。
妊娠中でも歯周病の治療は可能ですので、4~8カ月の安定期に治療を受けることをお勧めします。
喫煙が歯周病を悪化させるというのは本当ですか?
本当です。
歯周病とタバコ。一見すると何の関係もなさそうですが、喫煙者(タバコを吸う人)は非喫煙者(タバコを吸わない人)よりも歯周病にかかりやすく、重症化しやすい傾向にあります。
また、喫煙者は歯周病の治療をおこなっても非喫煙者に比べ、効果は25~50%落ちるとされています。更に予後が悪く、歯周病により歯を失う確率も高くなっています。
これらの原因は煙草に含まれる有害物質に起因しています。
―ニコチンによる血流阻害―
タバコに含まれているニコチンは、歯肉の血流を悪くします。そのため、歯肉に酸素や栄養が行き渡らず、抵抗力が弱まり、歯周病を進行させます。
-一酸化炭素による酸素供給阻害―
タバコによって発生する一酸化酸素によって、歯肉に酸素や栄養が行き渡らず、抵抗力が弱まり、歯周病を進行させます。
―ニコチンや一酸化炭素による歯肉の硬化―
ニコチンや一酸化炭素によって、歯肉が硬くゴツゴツしてくるために、歯周病が進行しても自覚症状を感じず、気付いた時にはもう手遅れということがよくあります。
―白血球の活動を抑制―
白血球は歯周病菌と戦い、退治する役目を持っているのですが、タバコは白血球の機能を低下させる作用があります。その結果、歯周病菌に対する歯肉の防御機能が低下して、歯周病が悪化しやすくなります。
―新しい組織を作る細胞の増殖を抑制―
タバコは歯周病の回復に必要な細胞の増殖を妨げる働きがあります。
より、歯周病治療をしたとしても喫煙習慣を続けていれば改善は望めません。
―唾液の減少―
唾液はタバコに含まれる有害物質を中和したり、歯周病菌の増殖を抑える働きがあり
ます。タバコによって唾液が減少すると歯周病が悪化しやすくなります。
高齢になるにつれて歯周病になりやすくなるの?
確かにその傾向はあります。
やはり、加齢とともに体の機能は衰えてきますので、それに伴い若い時に比べ歯周病
になりやすく進行しやすいと言えます。
しかし、お口のケアを心がけることにより歯周病リスクを低く抑えることは可能です。